春哉が既に去った座敷にて。
「華苑さん……いらっしゃったんですか……」
片づけを終えた夢丸が、先ほどとは打って変わって憔悴しきった様子で華苑の顔を見た。どうやら気丈なふりをして春哉に挨拶していたようだ。
「ずいぶん疲れているようだな。まったく……あの方も容赦がない」
「いいんです。その方が」
手に持った扇子を帯に差し、肩を落としたまま部屋に戻ろうとする。
「ひとつ忠告しておく。陰間として無様な真似だけはするな」
その声に先ほどのような和やかな空気はない。むしろ硬質で冷たい感覚すら覚えるその声は、本当にあの華苑の声かと疑うほどのものだった。
それに驚いたのか、夢丸が華苑を振り返ったが……
「まぁ、また明日頑張れよ。この上なく怖い師匠だがな、腕は確かだぜ。このアタシが保障するんだから間違いないッ!」
その変わりように呆然とする夢丸の肩をぽんと叩くと、華苑は自室へと消えていった。
「華苑には十分お気をつけ下さいませ」
「なんだ、いきなり」
長屋へ帰る道すがら、ふいに春哉がそう言った。
「あの男は裏表が激しい男です。一見下品でだらしないですが、実は頭が切れて人の心に敏感です。私も奴相手に何度辛酸を舐めたことか」
「落ち着けよ。それは俺も何となく感じた。話していても最後まで本性を見せなかったしな。だが悪い奴ではないと思うぞ。お前だってそれはわかってるだろう?ダチなんだし」
「ダチ……ッ!そんなんじゃありませんよ!!あいつ、数馬さんに何を吹き込んだんだッ?!」
「隠すな隠すな。茶飲み仲間で、芸事の師弟で、陰間の先輩後輩なんだろ?立派なダチじゃねェか」
「茶飲み……っ!だから違いますって!!」